リーチ動作に先立つ姿勢の安定
立位から前方のもの手を伸ばすという何気ない動作にも姿勢の安定性が必要となります。
リーチ動作に伴う姿勢の安定性が保たれていない場合、体幹が前に傾いてしまったり、ものを持ったときに転倒してしまったりするでしょう。
例えば、片麻痺患者さんにおいて、麻痺側の随意運動を確認することがあります。
伸びにくい手をどうにか頑張って伸ばしている、その時の体幹は大きく傾き、動揺も強まっている…このような経験はあるかと思います。
運動分析を進めていくときには、四肢の随意運動と同時に姿勢の安定性についての視点が重要です。
中には姿勢が不安定なために、四肢の随意性を十分に発揮できないケースもいます。
四肢の運動(遠位部)=姿勢の安定(近位部)
この両輪が駆動していることが評価を進めていくなかで大事な視点になると言えます。
では、リーチ動作に先立つ姿勢の安定について臨床的な視点で考えていきます。
リーチ動作に先立つ姿勢の安定【時間的観点】
予測的姿勢調整は、手足の動かすことに伴う不安定な力を補うことで、姿勢の安定性を維持する役割があります。
Anticipatory postural adjustments (APAs)と呼ばれ、Schepensら[1]によると100ms以上の動きに先行するとされています。
臨床的な視点で考えると、運動開始前にどれだけ準備・予測ができているか考えてみましょう。
健常人でも予測できないものに関しては、どれくらいの強さやタイミングで姿勢を安定させたらよいのかわからないものです。
つまり経験や課題に依存するといえます。
未経験の課題であれば、どれくらいの回数、量、質で安定してくるかを確認することで、学習効果の判定に繋がります。
「これがpAPAだ!」厳密性をもって評価することは難しいかもしれません。
100ms前のpAPAの役割を知っておくと運動開始前を細かく分析しなければと痛感します。
リーチ動作に先立つ姿勢の安定【橋延髄網様体】
APAsは脳のどのような部位が貢献しているのだろうか、あるいはどのようなネットワークが関与しているのだろうかと疑問がわくと思います。
Schepensら[1]によると橋延髄網様体のpAPAs及びaAPAs に役割を果たしていることが示唆されています。
加えて、運動皮質の貢献についても示されています。
臨床的な視点で考えてみましょう。
リーチ動作を観察するときには、動きをシークエンスで捉えるかと思います。
先程は運動開始前のpAPAsをあげましたが、その次に大切なのは運動中のaAPAsとなります。
途中まではリーチできるけど、あるポイントからうまくリーチできない、このようなケースは経験があるかと思います。
APAsの観点から考えると、pAPAsの視点で分析を深めていけると良いかと思います。
ただし、aAPAsとpAPAsを一連の動作のなかで白黒はっきりと区別することは困難です。
大切なのは、APAsの視点で動作分析しセラピーを深堀りする考え方です。
予測的姿勢調整の視点【片麻痺のアプローチ】
APAsの視点で片麻痺患者さんへのアプローチを考えてみます。
大枠として大切なのは、個人・課題・環境の相互作用について理解することです。
例えば、リーチ動作を行うときに、端座位よりも高座位のほうが手を伸ばせる、高く挙げれるなどポジティブな潜在性が観察されるとします。この場合、高座位によってAPAsに貢献する近位筋の活性化が高まった可能性があります。
ここから、姿勢の安定を保つことができる範囲で支持基底面を狭めていくことで難易度の調整が可能です。
手の随意性が良好なケースであれば、キャッチボールのような課題も良いかもしれません。
患者さんは、ボールをキャッチするまでの過程で、ボールの軌跡、速度、放物線、形状、硬さなどさまざまな予測をします。
小さなエラー修正で、成功体験を積み上げられる課題を選択しましょう。
このときも大切なのは、
四肢の運動(遠位部)=姿勢の安定(近位部)
この視点は忘れないことがポイントです。
まとめ
本日は、リーチ動作に先立つ姿勢の安定について考えました。
予測的姿勢制御は難しいかもしれませんが、脳卒中後リハビリを考える上で重要なキーワードです。
知識を整理して、臨床実践とつなげていけると一つ一つのセラピーに根拠を持てると思います。
以上になります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
少しでも明日の臨床につながれば幸いです。